ウブドの休日(5)

12月26日   ジェゴグの演奏会

 バリはこの時期、雨季である。夜中に雨が降って朝方にあがって、昼間、夕方近くなってまた降ってくるという日が続いている。また、降るときにはかなりまとまって降るようだ。今日は、ヌガラの海岸でジェゴグの演奏会がおこなわれるのでそれを聞きに行くことになっている。雨が降らなければいいのにと祈る。

 朝食の前に、調理場をのぞくと、アニャンがいたので、翌日の車を借り切りたいと頼む。昨日のツアーで、最初に申し込んでいたツアーは中止になって、ほかのツアーに変えたため、効率よく回るためには車を借り切るのがよいと思ったからだ。アニャンは宿の従業員であることがはっきりしたので、信用できる。料金の面でも安心だ。約束はとれたのだが、料金については宿のオーナーに聞いてみるとのことだ。

 朝食のさい、新たに日本人男性と一緒になった。バリで年越しをするとのことで、毎年、この宿にやってきているという。バリの習俗についてもかなり詳しい人である。一方、ずっと一緒だった女性は今日の夜、帰国ということである。話がはずんでしまって、9時になってしまった。

 今日は、午前中、ウブド近郊のみどころを、乗合のミニバスであるベモを使って見学する予定だ。12時30分にジェゴグのツアーは集合ということになっているので、ちょっと忙しい。

 ベモという乗り物であるが、慣れない人にはなかなか乗ることのできないシロモノである。ガイドブックでもすすめていない。経路や時間がわかりにくいし、料金も表示されていないので外国人は高くとられてしまうらしい。さらに、満員の場合はスリの心配もあるとか。でも、乗ってみたい。どこの土地へ行っても、地元の乗り物にできるだけ乗ってみたいのだ。

 さて、ベモは、起点終点のほかは止まる場所が決まっていない。道端で、手をあげて止めて乗りこむのだ。通りに出て、車を観察する。ベモらしい車がきたのだが、手をあげることができなかった。そのまま行きすぎてしまった。結局、歩いてすこしでも距離をかせぎながら、次のベモにチャレンジしてみることにする。なかなかこない。歩いているうちに一台通りすぎていった。やはり道端に立っているほうがいいのか。1キロくらい歩いたところで、ちょっと先に子どもが何人かいる。これはベモに乗るんだろうと思っていたところ、ちょうどベモがやってきたので自分も駆け寄る。念のために、行き先を告げると、乗れと合図されたので乗車。

 昨日、来たばかりのゴア・ガジャで下車。5分ほどの乗車だった。さて、いくらなのかわからない。途中で降りたおばさんが Rp500をはらっていたので、自分もそれに習う。Rp500といっても、日本円では8円である。もっと払えといわれたときにそなえて、Rp1000も用意したのだが、とくに何も言われなかった。

 訪問予定は、ゴア・ガジャの南方1キロのイェ・プルと、北方1キロの寺院群である。イェ・プルへの道はわかりにくそうだと思っていたのだが、案の定、間違ってしまった。岩壁に掘られた彫刻がみられるのだが、ヒンドゥー教や仏教の遺跡ではなく詳細は謎らしい。迷ってしまったので、もう一つの目的であった寺院群は割愛せざるをえなかった。

      
        イェ・プル遺跡の彫刻。

 帰りは、ベモの走る通りに出て歩いていると、手もあげなかったのに、ベモが止まってくれた。行き先を確認して乗車。今度はちょっと距離があったが、10分ほどで、宿の近くまできたので、ストップといって止まってもらう。降りるのもどこでもできるのだが、運転手に声をかけなばならないのだ。手持ちのRp500札がないので、今度はRp1000を差し出す。運転手がにっこりしたので、本当はやはりRp500だったのだろう。おつりはくれないのだ。

 宿にいったん戻ってシャワーを浴びて、すぐにまた出かける。早めの昼食をとって、集合場所のAPAという日本人向けインフォメーションへ。やがて、大型バスがやってきて乗りこむ。30数人乗りのエアコン完備のバスだ。バスは3台あったのだが、全員が日本人である。海外でこれだけ大勢の日本人と同一行動をとったのははじめての経験である。

 バスは島のなかをひたすら西に進む。3時間かかって、バリ西部の中心地であるヌガラにはいり、さらに海岸に向かう。やがて、演奏会場の海岸に到着。ジェゴグの演奏は地元の人もあまり聞いたことがないものらしく、地元の人々がたくさん集まっていた。ツアーの日本人100人ほどがゴザの上に座り、そのまわりを地元の人たちが見ているという感じだ。地元の人たちにとっては、日本人の団体も興味対象なのかもしれない。

 まもなく、ジェゴグの演奏の開始。バリの打楽器を総称してガムランと呼ばれる。またその音楽自体もガムランと呼ばれる。たいていのガムランは青銅製で、それをたたくのである。ジェゴグは、竹製のガムランである。竹琴といってもよい。この楽器の材料にできる竹は、バリ西部のヌガラ付近にしか生育していないだという。

      
        ジェゴグの演奏。

 しかも、ジェゴグはいったんすたれてしまって、一時は博物館でしか見られない楽器であったという。これが、スェントラさんによって再興されたのだ。スェントラさんは上手は日本語であいさつして、さっそく演奏開始。

     
     楽団のリーダー、スェントラさん。日本公演も多数。

 ふだんは、大小14台のジェゴグでひとつの楽団になっているのだが、この日は特別に4組の楽団が出演。複数の楽団が一緒に演奏したり、ひとつの楽団の演奏と異なる旋律を別の楽団が演奏するなどのこともしてくれた。やがて、見学客の何人かが、楽器の下にもぐりこむ。自分も入ってみた。からだがしびれるような感じである。

    
     ジェゴグにあわせたダンス。

 スェントラさんは、見学するだけではなくて参加しなくては、といって、振り付けを教え始める。簡単なバリのダンスである。また、ジェゴグを実際に演奏させてもくれた。ジェゴグは4音階の簡単な楽器なのだが、演奏するとかなり難しい。音階を番号で指示される場合には、なんとか鳴らせたのであるが、音を聞いてそれと同じ音を鳴らすとなるともうお手上げであった。

 最後に見学者がジェゴグにあわせて踊るなかで演奏会が終了。また3時間かけてウブドに帰る。踊りで疲れたのか、ほとんどの客は寝ている間に、21時30分ごろウブドに到着。王宮前で降ろしてもらって、食事をして宿に戻った。