(13)ワン
ディヤルバクルを出発した夜行バスは、夜中にも検問を受けた。運転手と兵士が長く話しているときは何かあったのかと不安になったが、何を話しているのかわからない。でもバスに兵士が乗り込んできて1人づつ調べるということはなかった。やがて左手に大きな湖が見え隠れするようになる。ワン湖である。6時30分すぎにワンに到着。トルコ最東端の地域では一番大きな町である。町の中心に着いたようで、荷物を取り出すとすぐに泊まるつもりをしていたホテル、ビュユックアスルへ。バスの下車地点からわずか2分ほどの距離であった。
ワン湖
ホテルではすぐに部屋を使えたので、さっそくシャワー。また、朝食は本来は翌朝にとるものであるが、この日に食べさせてもらうことにした。朝食のために部屋を出たついでに、フロントで車の手配を頼む。すると逆に、明日はどうするのかとか尋ねられ、ガイド付のプライベートツアーで、ドゥバヤズットやカルスも回ればどうかと勧められた。当初は、安くあげるため、ドゥバヤズットやさらにカルスまでの移動には、公共のミニバスを使い、ドゥバヤズットやカルスで行き、着いてから現地のタクシーを使ってその周辺を回るつもりをしていた。しかし、ミニバスは危ないとか時間がかかるとかで、やめたほうがいいとしきりに言われる。それに、ミニバスを利用したのでは、ワン湖の東岸にあるタトワン方面を訪問するのは時間的に無理なので、もともと行くつもりがなかったのだが、プライベートツアーにすれば、そちらも訪問することができる。そんなわけで、プライベートツアーを利用しようかぁ、という考えに傾く。
運転手兼ガイドがやってくるまでしばらく部屋で休んだあと、ホテルにやってきた運転手兼ガイドのヤトシュさんと値段交渉。結構な金額になる。3日間の車・ガソリン・運転・ガイド・入場料・昼食・チャイなどを含めて665百万TL(58520円)で交渉成立。ここにはホテル代と夕食費は含まれていない。もし、3日間ともそれぞれの町で車を手配していれば、どの日も車代としては100百万TL(8800円)あれば十分だろう。入場料や昼食はそんなに高くつかないから、およそ半額で回れるはずだ。しかし結局、ミニバスを利用した場合の危険性、ミニバス利用ではタトワン方面にいけないという効率性の低さを考えて、ヤトシュさんを雇うことに決定。(行った時点では、100万TL(トルコリラ)=88円程度であった、したがって1億TL=8800円だが、ここでは100百万TLという書き方にした。トルコでは、100万TLの札を頻繁に使用するからである。なお、この文を書いている時点(旅行後2ケ月)には100万TL=80円程度になっている。現地での総旅行費が約1割減ですんだのだ。これは1.5万円程度になり、旅行の時点でかなり変わるものと痛感した。)
ホシャップ城
9時、ホテルを出発。まず向かったのは、ホシャップ城。ワンの東60kmにあり、17世紀にクルド人の王によって建てられた。1時間ほどで到着。ほとんど廃墟になっていて、内部を歩くのも大変だ。ヤトシュさんから、王の居室、食事場、調理場、応接室、ハマムそして牢屋などと説明をうけたが、どれも同じに見えてしまう。上部からは周辺の眺めが良い。城の周りは、クルド人の城下町のようになっていて、そこで休憩しチャイタイム。ヤトシュさんが支払いのあと、とても高くとられた、ここの者は悪い、と嘆いていた。ヤトシュさんもクルド人だが、行く先々で、ものを盗られたりしないよう注意するよう私に警告していた。クルド人というだけで、同じような考えをもった集団であるわけがないのは当然だが、ともすれば何々人ということでまとめてしまいがちなことに気をつけねばと感じた。
チャウシュテペ城の楔形文字
続いて、チャウシュテペ城。こちらは、ホシャップ城からワンに戻る途中に立ち寄る。歴史はずっと古くて紀元前8世紀のウラルトゥ王国の城である。建造物は何も残っていなくて、城跡というだけである。城に上がるだけでなく、城の中を歩くだけでもかなりの上り下りがあり、たいへん疲れた。細長い城で、門にあたるところから一番奥のところまで300mくらいあるが、横幅は20m程度しかない。大きく寺院の部分と宮殿の部分にわかれている。寺院の部分には、楔形文字が刻まれた石の土台が残されている。きれいに残されていたのでレプリカだと思ったが、本物であるという。
アクダマル島のアルメニア正教会
その次は、ワン湖の南岸から船で渡ったアクダマル島にあるアルメニア正教会。島への渡し船はある程度の数の客が集まらないと出ないようだが、待っているのはまだ2,3人。それで、先に、船着場のそばにあるレストランで昼食。昼食を終えたころに、客が集まってきたようで、島に渡ることになった。ワン湖は塩水湖で、水はとても青いのが印象的である。15分ほどの船旅でアクダマル島に到着。島で見学するような場所はアルメニア正教会しかないので、船に乗っていた全員が教会の方へ向かう。教会の中には、鮮やかな壁画がかなり残されていた。でも管理が行き届いていないようで、建物自体はかなり朽ちていて、崩れないかと思える。湖を見渡せる丘の方にも向かったが、丘のふもとに鉄条網があって、高いところへは上れないようになっていた。島からの帰りの船は、時間が特に決まっておらず、客が船に戻ってきたら出るという感じ。島へ行くときには気づかなかったが、日本人女性が船に乗っていた。トルコでの行動などを話し合う。
ワン城
このあとミニバスでワンへ戻るという日本人女性も車に乗せて、ワン城へ。ここは紀元前9世紀のウラルトゥ王国の城である。ワン城はワンの郊外、湖寄りにあるが、市街地に近いこともあって、地元の人たちの行楽地になっていた。城の麓でチャイを飲んでから城へ。ワン城は規模が大きく、麓から上まで上がるのに結構な距離がある。上まで上がっても、城の中がまた大きくて、端から端までで1kmくらいあって、一通り見て回るだけでも1時間以上かかった。軽いハイキングといった感じであったが、日差しが強く、陰になるような場所も少なく、かなり疲労した。城の上からは、ワン湖、ワン市街がよく見える。城のすぐ下には、今は、ところどころにジャミィの廃墟などがあるだけの、元のワン市街が広がる。第一次大戦のときにロシア軍によって徹底的に破壊されて町がなくなってしまったそうだ。城を降りたてから、この元市街にいってみた。現在は単なる荒地でしかなく、歴史を感じさせるのは、わずかに残された廃墟だけである。
ワンの繁華街
ヤトシュさんは、キリム屋も経営していて、その店にも是非きてほしいと頼まれる。本来、買う気のない店に行くべきではないのだが、今回はガイドがやっているということで、いってあげることにした。値段が安いから買い得だと言われるが、関心がないものだから日本ではいくらくらいしているのかとか知らないし、品物の良し悪しもわからない。ヤトシュさんも、自分に買う気がないとわかるや、無理に買わせようとはしなかったので悪い印象はない。
ホテルに戻ったのが17時ごろ。シャワーを浴びて、一休みしたあと、食事にでかける。繁華街にあるロカンタで夕食。このあと、インターネットカフェがあったので入ってみた。だが、キーボードが違うために、キーボードに明記されていない特殊な記号の入力方法がわからなかったりして、ほとんど何もできなかった。21時ごろにホテルに戻り、もう一度シャワーを浴びて就寝。